TENTIALの企業分析:高成長を続けるリカバリーウェアブランド

目次

TENTIALの決算情報と財務状況

TENTIALは2018年創業のヘルスケアアパレル企業で、近年売上・利益ともに急拡大しています。2024年1月期の通期決算では売上高約54億900万円(前年同期比+165.9%)を記録し、営業利益約4億7300万円、当期純利益約5億600万円と初めて大きな黒字を達成しました。

翌2025年1月期はさらなる高成長が見込まれており、売上高119億5500万円(+121.0%)、営業利益13億2100万円(+179.1%)、純利益8億5500万円(+68.9%)と予想されています。売上高は前年比2倍以上の伸びを続け、利益率も改善傾向にあります。売上総利益率は約70%と高水準で、営業利益率も2023年1月期の2.0%から2024年1月期には8.8%へ上昇し、2025年1月期は約11%まで向上する見通しです。

財務基盤も着実に強化されており、2022年1月期までは赤字計上が続いていましたが、2023年1月期に黒字転換し、2024年1月期末の純資産は約12億円と前期の倍に増加しました。事業拡大は主に内部留保とエクイティ調達で賄われ、大型の銀行借入などに依存せず成長してきた点も特徴です。2025年2月28日には東京証券取引所グロース市場への新規上場を果たし、IPOにより調達した資金でさらに財務体質を強化しつつ成長投資に充当する計画です。

財務ハイライト(通期)

決算期売上高営業利益当期純利益前年比売上成長率営業利益率
2022年1月期8.47億円赤字-3.51億円
2023年1月期20.34億円0.40億円-0.13億円+140.2%2.0%
2024年1月期54.09億円4.73億円5.06億円+165.9%8.8%
2025年1月期(予想)119.55億円13.21億円8.55億円+121.0%11.0%

上場時の想定時価総額は約130~140億円でしたが、初値は公開価格2,000円を30%上回る2,600円をつけ、初値ベースの時価総額は約194億円に達しました。上場後も株価は堅調に推移しており、予想PERは20倍前後と成長企業としては適度な水準に収まっています。

TENTIALの成長戦略

TENTIALは「コンディショニング(体調管理)ブランド」として、着用するだけで身体の回復を促す製品を開発・提供しています。今後の成長戦略として経営陣は以下の4つの柱を掲げています。

1. マスプロモーションによる認知拡大

デジタルマーケティングに加え、テレビCMや著名人の起用など大規模な広告展開でブランド知名度を向上させる戦略です。2024年11月には人気アイドルで俳優の櫻井翔さんを「BAKUNE」のイメージキャラクターに起用し、全国でテレビCMを放映しました。創業当初はSNSやネット広告中心のマーケティングでEC売上を伸ばしましたが、上場を機にマスメディアも活用し、一層幅広い層へのリーチを図っています。

2. SKU拡大による継続成長(製品ラインナップ拡充)

主力のリカバリーナイトウェア「BAKUNE」シリーズ(睡眠時着用)以外にも、新製品や新カテゴリ投入で売上基盤の多角化を狙います。同社はすでにSLEEP(睡眠)、WORK(日常活動)、FOOT(足元ケア)の3カテゴリーで100種類以上の商品を展開しています。

例えば、日中の普段着向けに遠赤外線素材を用いた「MIGARU」シリーズや、歩行時の疲労軽減を図る「リカバリーサンダル」、足のアーチを支える高機能インソール等を発売しており、”着る投資”による健康サポート商品を次々と開発しています。今後も研究開発を強化し、新素材・新技術を取り入れた製品開発やラインナップ拡張によって継続的な成長を目指す方針です。

3. 会員プログラムによる顧客ロイヤリティ向上

2024年5月に導入した自社会員制度を通じて、顧客の囲い込みとリピート購入促進を図ります。同社は自社ECサイトを自前で開発・運営し、購買データや行動データを蓄積・分析してマーケティングに活かしてきました。累計購入額上位10%のコアファンが売上の約40%を占めるなど、熱心な固定客層を抱えていることも強みです。

会員プログラムによってポイント付与や限定サービスを提供し、顧客満足度と生涯価値(LTV)の向上を目指しています。また、蓄積したビッグデータを活用し、一人ひとりの嗜好や購入履歴に合わせたパーソナライズ施策や商品提案を行うことで、顧客との長期的な関係構築を進めています。

4. 海外展開による市場拡大

中長期的にはグローバルブランドとしての展開も視野に入れています。2024年夏には中国・上海の高島屋にてポップアップストアを開催し、海外市場のテストマーケティングを行いました。今後は高価格帯の機能性製品が受け入れられやすい海外市場を選定し、出店やEC展開を計画しています。

特にアジア圏や富裕層マーケットへの進出を検討しており、自社の「休養を重視するライフスタイル提案」がグローバルでも受け入れられるか模索中です。海外展開を担う人材の採用も進めており、将来的には海外売上比率の向上によってさらなる成長ドライバーを確保する見込みです。

以上の戦略を実行するため、上場により多様化した資金調達手段を活用し、ブランド強化や人材投資、研究開発への積極投資を行うとしています。調達資金は広告宣伝費の拡大、新商品の開発、人材採用や組織基盤の強化に充てられる予定です。

競合他社との比較分析

TENTIALが属するリカバリーウェア市場は、近年注目を集める新興分野であり、複数の企業が参入しています。主な競合には、パイオニア的存在のベネクス(VENEX)社、美容・健康機器大手MTGのSIXPADリカバリーウェア、寝具メーカー系のマイまくら(my makura)リカバリーウェア、睡眠ベンチャーのブレインスリープ社のウェア、さらには低価格帯で展開するワークマンのリカバリーウェアなどが挙げられます。

ベネクスは2005年に世界で先駆けてリカバリーウェアを開発した老舗で、独自素材「PHT繊維」を使用した製品を展開しています。一方、**TENTIAL(BAKUNE)**も遠赤外線を輻射する特殊繊維「SELFLAME®」を採用し、血行促進や疲労回復効果を打ち出しています。両社とも一般医療機器としての認証を取得し、安全性・効果について一定のエビデンスを備えている点で共通しています。

SIXPADリカバリーウェアは、EMS機器で有名なMTG社が比較的新しく参入した競合です。SIXPADブランドの知名度とマーケティング力を背景にシェアを拡大しており、価格も上下セットで約1.5万円程度と、TENTIAL/ベネクスよりやや手頃な設定で若年層を取り込みつつあります。

また、寝具業界からはマイまくらが参入し、睡眠専門店のノウハウを活かした「リカバリーウェア」を展開。上下セット1.3万円前後と比較的安価で、店舗販売網を通じてシニア層などにもリーチしています。さらに、ブレインスリープのように高機能枕で実績を持つ企業も自社の睡眠関連商品の延長でリカバリーウェアを発売し始めました。一方、作業服大手のワークマンは低価格帯(上下で1万円以下)で機能性パジャマを販売し、「疲労回復ウェア」を一般大衆市場に広めつつあります。

TENTIALの競争優位性としては、以下の点が挙げられます:

  • 積極的なマーケティングとブランド認知: テレビ番組や有名人を活用したプロモーションで知名度を急速に高め、累計販売枚数100万枚超のヒット商品を生み出しました。特に櫻井翔さん起用のCMや、多数の芸能人・プロスポーツ選手の愛用エピソードがSNS・メディアで拡散され、ブランド想起率向上に貢献しています。
  • D2Cモデルと顧客接点の強さ: 売上の約66%を自社EC・直営店といった自社チャネルで占めており、顧客データを自社で蓄積・分析している点は差別化要因です。これにより商品開発やマーケティングを俊敏かつ的確に行え、競合より顧客ニーズへの対応力が高いといえます。
  • 幅広い商品ラインとサイズ展開: TENTIALはXSから5XLまで幅広いサイズや、パジャマ以外のアパレル・サンダル・インソールまで揃える総合ブランドです。競合各社は主力商品のバリエーション中心で、総合的な健康ブランドとしての品揃えではTENTIALに一日の長があります。

一方でTENTIALの弱みとして指摘されるのは、主力商品の集中度です。売上の約8割が「BAKUNE」シリーズに依存しており、この一品のトレンドに業績が大きく左右されるリスクがあります。また価格帯が高いため、「価格の安い類似品」が今後市場を拡大するとシェアを奪われる懸念もあります。消費者からは「気にはなるが上下セット2~3万円は高く、手が出ない」という声も聞かれており、この層を取り込むための価格戦略やエントリーモデル開発も課題と言えるでしょう。

リカバリーウェア市場の業界動向

リカバリーウェア市場は、近年急速に拡大しているヘルスケア分野です。その背景には、現代人の高まる健康志向と疲労感の蓄積があります。日本では「2人に1人が日常的に疲労を感じている」とも言われ、快眠や休息への関心が非常に高まっています。こうした中、「休むこと」「眠りの質」を改善するソリューションとして、リカバリーウェアが注目を浴びています。

業界団体である一般社団法人日本リカバリー協会によれば、休養関連市場は直近1年間で約3.4倍に拡大したとのデータもあり、リカバリーウェア市場もここ数年で急成長しています。元々2005年にベネクスが市場を開拓してから長らくニッチな存在でしたが、2020年前後から各社が参入し始め、一大トレンドになりつつあります。

業界のトレンドとしては以下が挙げられます:

  • エビデンスと機能性の重視: 類似商品が増える中で、科学的根拠(エビデンス)の有無が重要視されています。主要メーカーは大学や研究機関と連携した検証データを公表したり、医療機器認証を取得することで他社製品との差別化を図っています。
  • 商品カテゴリの多様化: 当初はパジャマ型が中心でしたが、最近はオフィスで着られるリカバリーウェアや、旅行・移動時に着用するトラベル用、立ち仕事向けのインナーウェアなど、様々なシーン別の商品が出てきています。
  • 販売チャネルの拡大: 市場拡大に伴い、百貨店やスポーツ用品店、オンラインモールなどでリカバリーウェアを取り扱うケースが増えています。テレビ通販やネット通販での露出も増え、消費者が製品に接触する機会は格段に向上しました。
  • 消費者の購買行動の変化: 消費者側では、「いい睡眠のためなら高額なパジャマを買っても良い」という健康投資の意識が浸透してきました。特に30~50代の働き盛り世代やシニア世代の高・中所得者層が、自分や家族の健康管理の一環としてリカバリーウェアを購入するケースが増えています。

総合すると、リカバリーウェア市場は「休養」への関心の高まりとともに今後も成長が期待される分野です。ただしブームに乗った企業乱立により玉石混交の状況でもあり、確かな技術とブランド力を持つ企業が生き残ると予想されます。

総括

TENTIALは「高成長×高収益」という稀有なビジネスモデルで注目を集めています。リカバリーウェア市場という新興市場で先行者利益を獲得し、デジタルマーケティングの強みを活かして急成長を遂げてきました。

今後の成長持続のカギとなるのは、主力製品「BAKUNE」への依存度低減と新カテゴリー開拓、そして海外市場での展開成功です。また競合他社との差別化を維持し、科学的エビデンスに基づいた製品開発を続けられるかも重要な要素となります。

リカバリーウェア市場自体が拡大基調にある中、TENTIALが上場企業としての信用力と資金力を活かして、どこまで成長の勢いを維持できるか、引き続き注目されるでしょう。

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